概要 歴史 <English version is here>

研究内容 (2008年8月データを少し書き足しました。また、2009年11月にこれからの研究テーマに関する記述を追加しましたが、最新の情報等、質問がある方は直接問い合わせてください。2013年7月に総説を追加しました。

 

 本分野では植物の機能発現機構を細胞ならびに分子レベルで解明し、その応用の基礎を築くことを目的として研究を行っています。

 これまで、この目的のために様々な機能を発現した培養細胞を誘導・選抜し、植物の機能発現調節機構ならびに物質生産を解析してきました。

 現在は、機能発現に関わる様々な遺伝子を単離し、これらの遺伝子機能を解析することにより、植物のもつ多彩な能力を包括的に理解したいと試みています。

 現在までに行ってきた主な研究成果はA)以下に記載するとおりですが。さらに、次に示すような研究テーマに対して、興味を持ち,研究に取り組んでくれる若い皆さんの参加を待っています。

1)高等植物において二次代謝系が如何に進化し、生理的役割を持つのかという事を知りたいと考えています。具体的には、B)にも示すイソキノリンアルカロイド生合成系をモデルに、同生合成系がどのように生合成遺伝子を多様化させ,様々な代謝産物をつくりだしてきたのか、また、新しい代謝経路の導入や、代謝系の遮断によって、どこまで、代謝系を変化できるのか?生合成系の多様化と共に、転写制御系はどのように進化してきたのか?さらには,このような代謝改変により作り出される植物体は、生態系においてどのように適応していくのか?等を解明したいと考えています。

2)植物細胞が作り出す様々な代謝産物は植物細胞でなければ、生合成出来ないのかと言う視点から、イソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子を導入した微生物を作製し、アルカロイドの生合成が可能であることをしめしました。この発展系として,さらに多様な植物二次代謝産物の合成を行おうとしています。また、新たに生合成された化合物の生理活性評価により創薬開発を試みています。具体的には、イソキノリンアルカロイドであるベルベリンが脂質の蓄積を抑制することから、新規な脂質蓄積抑制分子の合成とその機能評価を行なおうとしています。

3)植物のもつ光合成能力は地球上の生き物の生存の根幹です。如何に、植物が光エネルギーを受容し、利用しているのかのしくみは、未だ、十分にわかったとはいえません。この課題の解明は、植物科学ならびに生化学の最重要課題です。また、光合成効率の改善は、食糧、エネルギー生産において重要なバイオマス生産性改善の最重要課題でもあります。具体的には、光化学系II酸素発生系タンパク質群、ならびに,循環的電子伝達系群の機能解明とその改善を試みています。具体的なテーマの1つは、生育環境変化の影響を最も受けやすい細胞内画分として葉緑体チラコイド膜内腔に着目し、そこで機能するタンパク質の機能解明を目指すことです。最近の成果としては、緑色植物特有に進化した光化学系II酸素発生系タンパク質群が、光合成電子伝達鎖の機能維持と環境ストレス耐性に重要な役割を持つことを明らかにしました。それらタンパク質の分子機能解明をさらに進め、新しい光合成機能調節のメカニズムを解明したいと考えています。

4)植物が生育する上で、様々な条件が必要です。水や十分な肥料、特に、窒素は植物の生産性に大きく影響します。これまで、農業では、これらの制限要因を出来るだけ緩和する方向で栽培技術の改良が進められてきました。しかし、水資源の枯渇や環境負荷の軽減等を考えると、出来るだけ、少ない水、また、施肥で、生育する植物の育成が必要になってきています。乾燥に耐えるように適合溶質を蓄積する植物や、葉の老化に関わる遺伝子(CND41)の発現を制御した植物を用いて、より省力化された作物の育成と栽培法を開発したいと考えています。

5)最初にも述べましたように我々の研究室では、様々な特性を持つ細胞を選抜してきました。例えば、海水の1/2程度の食塩を含む培地で生育する細胞や除草剤に耐性の細胞等です。これらの細胞からそれぞれの変異の原因を特定し、遺伝子操作技術により新しい機能をもつ個体を作り出す事も可能ですが、近年の研究から、これらの細胞から、直接、個体に戻すことも可能ではないかと期待しています。こうした研究から植物の持つ分化全能性の本質に迫れるのではないかと期待しています。

以上が当面のテーマですが、植物研究の課題はまだまだあります。我々の研究室では、新たな研究テーマの提案も歓迎します。是非、挑戦してください。

なお、JSTのScience Portal Chinaの注目記事(特集:植物科学)「植物由来有用二次代謝産物の産生に関する分子育種研究」(2011/01掲載)も参照してください。

また,古い情報になりますが、雑誌「遺伝」1999年11月号に研究室紹介が掲載されています。

これまでの研究成果

A) 植物細胞における機能分化の研究

  a-1) 葉緑体機能分化の解析 07/2/26 文献情報更新

CND41というアスパラギン酸プロテアーゼを中心に葉緑体の機能分化制御を研究しています。研究の一部は、佐藤文彦、加藤裕介(2003)代謝とオルガネラDNA(植物の代謝コミュニケーション;植物分子生理学の新展開)、杉山達夫、水野猛、長谷俊治、斉藤和季編集、蛋白質核 酸酵素、2003年11月号増刊、vol.48, No. 15, pp. 2154-2160で知ることが出来ます。

  a-2)培養細胞特異的遺伝子発現の解析

  a-3) 光化学系IIの構造と機能(旧、種々の環境ストレスに耐性な細胞の選抜と解析) 07/2/26 文献情報更新

植物の環境ストレス耐性の研究から、光化学系II酸素発生系タンパク質、特に、23kD (PsbP)タンパク質の解析に研究の中心がシフトしてきています。詳しくは、遠藤 剛、伊福健太郎、佐藤文彦、 光合成反応メカニズムの解明にむけて、応用物理、74(3): 360-364.を読んで下さい。

  a-4)循環的電子伝達系、光エネルギーの熱放散、葉緑体形質転換系ならびに蛍光測定による解析

B) 2次代謝機能の分子生物学

 特性の異なる細胞のモザイク的存在を認め、細胞選抜により高生産性細胞株を育成し、 有用代謝産物を大量生産するための基盤を確立してきました。 現在は、これらの細胞を用いて2次代謝機能の発現制御機構を細胞ならびに分子レベルで解析しています。

  b-1)ベンジルイソキノリンアルカロイド生合成系の解析 08/4/19文献更新

キンポウゲ科のオウレンから、ケシ科のハナビシソウへと研究が展開しています。研究の一端は、佐藤文彦、RNAiと創薬、医学のあゆみ、vol.208(8), pp. 675-678 (2004)(下記の著書リストから閲覧できます)で知ることができます。最近、イソキノリンアルカロイドの初発の反応を触媒するnorcoclaurine synthaseの単離と同定(J Biol. C hem. 282(9):6274-82 (2007))にも成功しました。また、マグノフロリン生合成系のP450, CYP80G2の同定にも成功しました(J Biol. C hem. 283:8810-8821 (2008)

  b-2)アルカロイドの蓄積に関する研究 (07/02/26文献情報更新)  

  b-3)ABC蛋白質の機能と生理学的役割の解明

     (現在、研究は中断しています)

  b-4)シコニン生合成系の遺伝子発現調節に関する研究

     (現在、研究は中断しています)

C) 形質転換植物を用いた植物機能の解析とその開発

 上記の研究で単離された遺伝子を用い、遺伝子工学的手法により植物機能の解析を行うとともにその応用開発を行っています。

  c-1)2次代謝産物生合成遺伝子を用いた薬用植物の分子育種 08/9/6更新

遺伝子組換え技術の応用により、植物の代謝の可塑性が明らかになってきています。研究の一端は、佐藤文彦、RNAiと創薬、医学のあゆみ、vol.208(8), pp. 675-678 (2004)(下記の著書リストから閲覧できます)で知ることができます。詳しくは、2006年から2007年にかけて発表した論文 (Fujii et al., Transgenic Research, DOI.10.1007/s11248-006-9040-4 , Inui et al., Plant Cell Physiol. Accepted doi: 10.1093/pcp/ PCL062)や総説(Sato et al. Current Pharm. Biotech., 8(4):211-8. Pubmed/17691990)を参照してください。現在、合成生物学的アプローチにより、微生物でアルカロイドを作る研究にも着手し、大腸菌にてドーパミンからレチクリンの生産に成功しました。さらに、酵母で発現した生合成酵素を組み合わせることにより、プロトベルベリン型アルカロイドであるスコウレリンやアポルフィン型アルカロイドであるマグノフロリンの生合成に成功しています(PNAS 105:7393-7396 (2008))。これらの成果は微生物でも植物アルカロイドが生産できること、また、立体特異性を持つ化合物を生産できる可能性を示しています。課題として、ドーパミンの投与が必要なこと、また、合成できる化合物が限られている事がありましたが、最近、石川県立大学の南 博道博士らとの共同研究によって「植物有用物質生産のための微生物プラットフォームの確立」に成功しました。プレスリリース参照。(Nakagawa A et al. (2011) Nature Communications 2, Article number: 326, doi:10.1038/ncomms1327)

今後、さらに反応条件の最適化や、さらなる生合成酵素を組合わせ生産できる化合物種を大幅に増大できる等、大きな可能性を秘めているといえます。

  c-2)炭酸固定遺伝子や適合溶質生合成遺伝子を用いた

       植物代謝機能の解析と改変

  c-3)ストレス誘導性遺伝子を用いたストレス耐性機構の解明

       とその増強

  c-4)モノテルペノイドの分子育種

      (現在、研究は中断しています)

  c-5)環境浄化植物の育成

      (現在、研究は中断しています)

  c-6)新規な遺伝子発現制御系の開発とその応用 07/3/23大幅改訂

 RNAiを用いた遺伝子発現制御法を開発し、遺伝子機能ネットワークの解析を進めています。成果の一部は、佐藤文彦、伊福健太郎、 植物におけるRNAi研究(その1) 一過的RNAi系の開発、化学と生物、43(3): 177-183 (2005)、ならびに Kato et al., Plant Cell Physiol. 48(1):8-18 (2007)でしることができます。

研究以外の活動

遺伝子組み換え技術の適切な受容に向けた活動

遺伝子組換え植物の輸出入に関して

日本植物生理学会通信No. 105(2009.2.25)より許可をえて掲載。

植物で未来をつくる

松永和紀著に佐藤文彦が責任編集として参画しました。この本の8章「遺伝子組換え作物の光と影を見つめる(佐藤文彦さんに聞く)」では、遺伝子組換え作物の社会における適切な受容に関しての佐藤の意見を取り上げてもらっています。また佐藤文彦の部屋に関連する写真が掲載されています。

学術の動向

学術会議の機関誌である学術の動向2009年2月号「食の安全と科学」特集号に「遺伝子組換え作物と食の安全」と題した原稿を掲載しております。

論文、著書など

原著論文

最近の著書・総説

Sato, F. and Kumagai, H. (2013) Microbial Production of Isoquinoline Alkaloids as Plant Secondary Metabolites Based on Metabolic Engineering Research. Proc. Jpn. Acad., Ser. B, 89, 165-182 (Open acess; free)

Chow, Y.L., Sato, F. (2013) Metabolic engineering and synthetic biology for the production of isoquinoline alkaloids. Chandra, S., Lata H., Varma A. (eds) Biotechnology for Medicinal Plants: Micropropagation and Improvement. Springer, pp. 327-343, DOI: 10.1007/978-3-642-29974-2_14 (reprint available on request)

Yamada, Y. and Sato, F. (2013) Transcription factors in alkaloid biosynthesis. In International Review of Cell and Molecular Biology. Vol.305, Chap. 8, pp339-382, Elsevier, ISSN1937-6448 (in press; reprint available on request)

Sato F. (2013) Characterization of Plant Functions Using Cultured Plant Cells, and Biotechnological Applications. Biosci. Biotechnol. Biochem. 77(1), 1-9 PMID: 23291765 (Open access; free)

Sato, F., Matsui, K. (2011) Engineering the biosynthesis of low molecular weight metabolites for quality traits (essential nutrients, health-promoting phytochemicals, volatiles, and aroma compounds). In: (Ed. Altman, A. and Hasegawa, P.M.) Plant biotechnology and agriculture: Prospects for the 21st century. Academic Press, Oxford, pp. 443-462. (Book chapter)

JSTのScience Portal Chinaの注目記事(特集:植物科学)「植物由来有用二次代謝産物の産生に関する分子育種研究」(2011/01掲載)

Endo T, Ishida S, Ishikawa N, Sato F. Chloroplastic NAD(P)H Dehydrogenase Complex and Cyclic Electron Transport around Photosystem I (minireview). Mol Cells. 2008 Mar 28;25(2) Pubmed/ 18414017

Sato, F., and Yamada, Y., Engineering formation medicinal compounds in cell cultures. In Advances in Plant Biochemistry and Molecular Biology, Vol. 1. (HJ Bohnert, H. Nguyen, and N.G. Lewis eds), Elsevier Ltd., Amsterdam, Pp. 311-345, 2008

Sato F., Inai K., and Hashimoto T.(2007)  Metabolic Engineering in Alkaloid Biosynthesis: Case Studies in Tyrosine- and Putrescine-Derived Alkaloids. In: Applications of Plant Metabolic Engineering, Chapter 6 (Editors: Prof. Verpoorte Robert, Prof. Alfermann A. W. and Dr. Johnson T. S.), Springer, ISBN: 978-1-4020-6030-4, pp.145-173

Sato F., Inui T., and Takemura T. (2007) Metabolic Engineering in Isoquinoline Alkaloid Biosynthesis (review). Current Pharmaceutical Biotechnology, Aug;8(4):211-8. Pubmed/17691990

F. Sato, RNAi and functional genomics (review),    Plant Biotech., 22: 431-442 (2005).

佐藤文彦、伊福健太郎、 植物におけるRNAi研究(その1) 一過的RNAi系の開発、化学と生物、43(3): 177-183 (2005)

遠藤 剛、伊福健太郎、佐藤文彦、 光合成反応メカニズムの解明にむけて、応用物理、74(3): 360-364.

佐藤文彦、RNAiと創薬、医学のあゆみ、vol.208(8), pp. 675-678 (2004)(出版社の好意により、許可をとって掲載しています。なお、図1のberberineの構造式には誤りがありますので注意ください。)

士反伸和、佐藤文彦、矢崎一史、抗菌性アルカロイドの植物細胞内への集積機構、バイオサイエンスとインダストリー、62: 252-253 (2004)

佐藤文彦、加藤裕介(2003)代謝とオルガネラDNA(植物の代謝コミュニケーション;植物分子生理学の新展開)、杉山達夫、水野猛、長谷俊治、斉藤和季編集、蛋白質核 酸酵素、2003年11月号増刊、vol.48, No. 15, pp. 2154-2160